※この記事は掲載時(2015年5月)の情報に基づきます。
京都MUSEUM紀行。【建勲神社】
京都のはじまりと歴史の山―船岡山
建勲神社が鎮座する船岡山は、京都の歴史においても大変重要な存在です。
古くは聖徳太子が活躍した奈良時代の文献にも名前が登場しているほか、平安京を作る際には、中国の陰陽五行思想や風水の考えにおいて大変に良い場所であるとされました。そこで、船岡山を北の中心基点として、真南に向かって御所にあたる大極殿と中央通にあたる朱雀大路(現在の千本通)を配し、そこを主軸にして東西対称に区画整備が行われたそうです。また、室町時代末期に起きた応仁の乱では、この船岡山に山名宗全率いる西軍が陣取ったことから、周辺の地域が「西陣」と呼ばれるようになりました。現在も当時の堀や土塁などの遺構が残されており、昭和43年(1968)に国の史跡に指定されています。船岡山は今ではすっかり住宅街に囲まれていますが、建勲神社の本殿の周囲はうっそうとした森におおわれており、都会の中にありながらまるで別世界のように静けさが保たれています。船岡山は昔からの京都盆地特有の植生がみられる貴重な場所だそうです。
伝統を受け継ぎ、今を生き、未来へ伝えること―神職の役目
現在建勲神社には、女性の神職の方が働いていらっしゃいます。神社で働く女性といえば巫女さんを思い浮かべますが、今回境内の案内をしてくださった松原さんは、「禰宜」と呼ばれる、神社の祭事や社務に際して宮司を補佐する神職さんです。
建勲神社の宮司さんの娘として生まれた松原さんにとって、神社の境内は昔から親しみのある場所でしたが、幼い頃は神社の仕事についてはあまり興味を持っていなかったそうです。高校卒業後、東京の大学へ進学し、そこで就職。その後ご結婚され、家庭も得ていました。
転機となったのは8年ほど前。宮司であるお父様に声をかけられたことでした。
「弟が跡を継がないことになったので、私に声がかかったんです。そのときは女性は神職にはなれないと思っていたのですが、父に聞いたら「女性の神職さんもいるよ」と言われて。それでやってみることにしました」
実は、日本の神職自体には性別制限はありません。神社によっては男性でなければ、女性でなければ執り行えない神事もあるそうですが、基本的にはどちらでも大丈夫なのだそうです。そこで松原さんは一念発起。神職の資格を得、5年前から建勲神社で働き始めました。
今までの仕事をやめて新たな道に進もう、と松原さんが決断したのには理由がありました。
「まだ東京で働いていたころ、アメリカに留学させていただいたんです。その時に日本を外からみて、改めてその良さを再認識しました。また、子供を授かり、親から子へと連綿と命が繋がっていくその中に自分がいることを実感し、次の世代に日本の伝統文化を継承していくことの大切さに気づきました。それで、父から話があった時、建勲神社にご奉仕することがまさに自分の進むべき道ではないかと、目の前の靄が晴れるように感じたんです。」
これまでとは全く違う仕事ではありましたが、いざ神職の仕事を始めてみるとすんなりと取り組むことができたと松原さんはいいます。回り道はしたものの、今はこれが天職だと思っておられるそうです。
「建勲神社は、船岡山という平安京の北の基点とされた小山の上にあり、織田信長公という歴史上の偉大な人物をご祭神としていて、厳かな身の引き締まるような雰囲気があります。お参りいただいた方が、この威厳に満ちた雰囲気の中、静かにご神前で祈りを捧げ、清々しい気持ちで帰途につくことができるように、境内の自然を大切に守り、ご社殿や参道を美しく保っていくことが、神職にとって大事な仕事の一つです」と松原さんはいいます。
やはり織田信長を祀る神社であるためか、歴史が好きな人や若い人も多く参拝に訪れるとのこと。人々の心のよりどころや憩いの場として、日本の神社は古くから大切な役目を果たしてきました。建勲神社には、その姿が今もしっかりと息づいています。
「神道では、今を生きるということをとても大切にしています。神の恵みと祖先の恩によって生かされていることに感謝し、一人一人が自分に与えられた能力や環境の中で精一杯、よりよい世の中を作るために努力し、次世代に継承していくというのが、神道の生き方です。私も神職という仕事を通じて何らかのお役に立てることができたらと思います。」
神社の境内からは、京都の町並みを眼下に見下ろすことができます。日本の歴史を形作った人の魂とともに、京都の街を静かに見守ってきた場所。後世に伝えていきたい京都の景色のひとつが、そこにありました。
(この記事は、建勲神社・禰宜 松原貴子様にご協力をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます)
建勲神社
所在地
〒603-8227
京都府京都市北区紫野北舟岡町49
開館時間
境内拝観自由
社務所:9:00~17:00
休館日
年中無休
お問い合わせ
電話番号:TEL 075-451-0170
FAX:075-451-0170
公式サイト
■交通のご案内
【市バス】
*「建勲神社前」バス停
1、12、204、205、206、北8、M1系統「建勲神社前」下車、船岡東通りを南へ徒歩3分、表参道大鳥居に至る。大鳥居より約120段の石段を上ると社務所に至る。
※「建勲神社前」バス停から社務所までは徒歩約7分です。
*「船岡山」バス停
同上系統「船岡山」下車、今宮門前を南へ、建勲神社北参道(ゆるやかな坂道です)を上り、さらに約50段の石段を上ると社務所に至る。
※「船岡山」バス停から社務所までは徒歩約9分です。
【車】
北大路通りの北参道より参入、船岡山中腹に至る。車道のつきあたりからは、約50段の石段を上り1~2分程度で社務所に至る。
※ 京都駅からタクシーで約25分です。
京都MUSEUM紀行。アーカイブ
- 京都MUSEUM紀行。第一回【何必館・京都現代美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二回【河井寛次郎記念館】
- 京都MUSEUM紀行。第三回【駒井家住宅】
- 京都MUSEUM紀行。第四回【龍谷ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第五回【時雨殿】
- 京都MUSEUM紀行。第六回【京都陶磁器会館】
- 京都MUSEUM紀行。第七回【学校歴史博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第八回【幕末維新ミュージアム 霊山歴史館】
- 京都MUSEUM紀行。第九回【新島旧邸】
- 京都MUSEUM紀行。第十回【元離宮二条城】
- 京都MUSEUM紀行。第十一回【半兵衛麩・弁当箱博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第十二回【京菓子資料館】
- 京都MUSEUM紀行。第十三回【木戸孝允旧邸・達磨堂】
- 京都MUSEUM紀行。第十四回【京都清宗根付館】
- 京都MUSEUM紀行。第十五回【京都万華鏡ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第十六回【京都府立堂本印象美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十七回【相国寺承天閣美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十八回【細見美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十九回【清水三年坂美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十回【千總ギャラリー】
- 京都MUSEUM紀行。第二十一回【京都国立博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十二回【京都大学総合博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十三回【京都工芸繊維大学 美術工芸資料館】
- 京都MUSEUM紀行。【建勲神社】
- 京都MUSEUM紀行。第二十四回【二条陣屋】
- 京都MUSEUM紀行。Special【京都市美術館 リニューアル特集】