※この記事は掲載時(2018年11月)の情報に基づきます。
京都MUSEUM紀行。Special【京都市美術館 リニューアル特集】
2019年度中のオープンに向けて、リニューアル工事(2018年1月着工、2019年10月竣工予定)を行っている京都市美術館。
これまでも京都の主要なミュージアムとして親しまれてきた京都市美術館ですが、リニューアルに伴いより新たな姿に生まれ変わろうとしています。
今回はリニューアル事業を担当されている京都市美術館総務課の葉山さんに、リニューアルに対する意気込みや目標、そして美術館の目指すこれからについて、お伺いしてきました。
京都市美術館リニューアルの4つの柱
京都市美術館の再整備にあたっては、まず市民の皆さんや専門家の方に色々な意見を伺って、どのような美術館を目指していくべきか、その将来構想を作ったんです。平成26年のことですね。そして、京都市美術館の強みや課題を踏まえて、4つの方向性を示しました。
- 一つ目が「未来に向けて歴史を紡いでいく美術館」。
- 二つ目が「幅広い世代の人々が集う美術館」。
- 三つ目が「ゆったり滞在し、ゆっくり楽しめる美術館」。
- 四つ目が「日本の文化芸術をけん引し、世界の人々を魅了する美術館」。
輝かしい伝統を継承し、世界に誇る美術館であるために、この4つの方向性を踏まえて再整備事業の具体策を定めていきました。
未来に向けて歴史を紡いでいく美術館
メディア等が主催する海外の名品を集めた全国規模の巡回展などは、多くの市民や観光客の皆さんが美術に親しむ良い機会となることもあり、これまで数多く受け入れてきました。
また、京都市美術館は市民のための展示施設の役割も担ってきました。京都市美術館での展示が大きなモチベーションとなっているという方もたくさんいらっしゃいますし、学生の卒業制作展や子どもたちの作品展なども、それをきっかけとして美術館に愛着を持っていただくこともできるでしょう。これらの役割は今後も大事にしていきたい。
しかし同時に、京都市美術館だからこそ見せられる、京都画壇の名品をはじめとするコレクションを常設で展示することも必要です。文化の営みの結晶とも言える美術品を守り、それを未来へ継承していくという美術館の役割を果たすためには、コレクションを常に見ていただく場所を確保しなければなりません。
そこで、リニューアルオープン後は館内に常設展示室を新設します。展示内容も季節に合わせて展示替えを行い、春になったらあれを、秋になったらあの作品を見に行こう、と一種の風物詩のように楽しんでいただける場にしたいと考えています。また、同じ作品でも子どもの頃に見たときと年齢を重ねてから見たときでは感じ方も違うでしょうし、新しい発見もできると思います。市民の方にとって、お目当ての作品と末永く付き合える、いつでも会いに行ける、そんな場所にしていきたいですね。
観光客の方に向けては、京都の、ひいては日本の美意識を感じていただける場所にもしていきたい。特に外国の方にとって、京都市美術館のコレクションの中心である近代の日本画は、海外では見る機会が少なく、珍しいものも多いと思います。四季の景色や着物、風物など日本的なものを描いたものも多数ありますから、日本文化の魅力や、京都らしさをわかりやすく感じていただけるとも思います。奥深い京都の文化の一つとして、美術館での新たな出会いを楽しんでいただきたいですね。
加えて、今後は作品収集を強化していきます。常設展が魅力的なものであり続けるためには、既存のコレクションに毎年新しい作品が加わることが不可欠です。このほど策定した収集方針の発表によって、京都市美術館は近代以降の「京都の美術」の調査・研究、収集・保存、展示・公開について責任をもって行うことを、国内外に対して広く表明することになります。この収集方針に基づいて、毎年着実に計画的に収集を進めて、豊かなコレクションを形成していきます。コレクションの充実は、ひいては京都市美術館のブランドを高めることにもなります。学芸員の腕の見せ所ですね。
また、コレクションを形成するに当たっては、これまで同様に市民や美術家の方からの寄付・寄贈が重要となります。ぜひ、今後も多くの方にご支援をいただけたら、ありがたいですね。
幅広い世代の人々が集う美術館
美術館が今後も歴史を重ねていくためには、子どもから高齢者まで幅広い世代に親しまれることも求められます。
これまで、京都市美術館の来客層の中心は長年にわたり美術に親しんでこられた方々で、若い世代の方へのアプローチが弱かった。同時に、京都市美術館で扱われている展示にさほど関心がなかったり、美術が身近でない方にとっては足を向ける対象になっていない。そこにアプローチするためには、新しい分野にも挑戦していく必要があるでしょう。
それが、現代アートや、マンガ・アニメ・ゲームなどサブカルチャーの分野です。今回の再整備で新館に設置する展示室では、これらの分野を中心に展示を行っていく方針です。
現代アートの作品は一見して何を表現しているのかわからないものも多く、私も正直「これは一体なんだろう?」と思うこともあります。しかし、その「?」を多くの人と共有して楽しめる拠点を作ることができれば、よりアートを身近に感じてもらえるのではないでしょうか。
また、今やマンガは、ルーブル美術館において「第9番目の芸術」として評価されているように、立派な芸術の一ジャンルとなっています。デザインやファッションはもちろん、既存の美術分野にも影響を与えている部分も大きいですから、京都市美術館でも今後扱っていくべきものと考えます。それに、マンガなどの展覧会は、美術に詳しくない人でも気軽に美術館に立ち寄るきっかけを作ることができるでしょう。
これら、新館で開催するジャンルの展覧会は、写真撮影を許可しているものも多いですので、撮った写真をSNSに公開して、フォロワーと共有するという楽しみ方もできます。美術館の楽しみ方の幅が広がることも、現代アートやマンガなどサブカルチャーの分野の作品が持つ魅力なのかなと思っています。
美術館にせっかく足を運んでいただいたのだから、「楽しい」「また来たい」と思っていただけるようにしたい。そのためにも、美術館の守るべき品位は守りながら、敷居を下げる努力もして、これまでとは別の切り口で美術館を楽しんでいける機会を作っていきたいですね。
加えて、京都の芸術系の大学や教育機関との連携も強化していきます。これまでのように卒業制作展の会場として展示室を提供することはもちろんですが、例えば、本館の地下1階に設けるギャラリーや多目的室を、若手作家の活動支援の場とする取り組みを進めたいと考えています。
また、多くの若手作家が活動しているにもかかわらず、これまで京都には現代アートを展示する大規模美術館はありませんでした。そのため、作家が全国デビューするのは東京や大阪などの美術館となっていました。リニューアルオープン後は、新館の展示室の活用により、京都で育った作家を京都から世界に発信できるようになります。若手作家の育成の面においても、京都市美術館が今後果たす役割は大きいと思います。
ゆったり滞在してゆっくり楽しめる美術館
美術館の滞在中は、入場待ちや休憩など、作品を見る以外の時間は意外と多くあります。この時間を快適に過ごしてもらえる場所にすることも、美術館へ足を運びやすくしていくために大切なポイントです。85年前に誕生した京都市美術館は「作品を展示する」という目的に特化した施設となっていましたので、その点が整っているとは言い難い状態でした。
そこで、再整備に当たっては、ミュージアムショップやカフェといったアメニティ施設も充実を図っています。同時に、本館の真ん中にあった大陳列室を中央ホールに造り替えるなど、ゆったり過ごしていただける空間を増やしていきます。
また、京都市美術館には展示室以外にも魅力的な場所がたくさんあります。例えば、美術館の東側には“植治”こと七代小川治兵衛が作庭にかかわった日本庭園があり、よく結婚式の前撮りにも使われている素敵な場所です。それに、美術館の建物自体も昭和初期の貴重な建築物として高く評価されています。「帝冠様式」と呼ばれる和洋折衷の外観はもちろん、広間や螺旋階段はまるで西洋の宮殿のような凝った作りになっていて、フォトジェニックな、所謂“インスタ映え”する場所が随所にあるんですよ。これらは今後もしっかりと保存していますので、展覧会と共に建物などの鑑賞も楽しんでいただけます。
もともと京都市美術館は岡崎公園のなかにある公共施設ですから、美術館も憩いの場のひとつであるべきです。そのために、市民や観光客の皆さんが日常のなかで気軽に訪れることができる場所にしていきたい、と考えています。中央ホールや日本庭園、アメニティ施設は無料で入場可能なエリアとなりますので、近くにお越しの際にふらりと足を運んでいただけます。美術作品を楽しめると同時に、美術鑑賞目的以外でも利用していただける、ゆっくり楽しめてゆったりくつろげる場所にしていきたいですね。
日本の文化芸術をけん引し、
世界の人々を魅了する美術館
京都をはじめ、日本には毎年大変多くの外国人観光客が訪れています。近年では、美術館・博物館施設自体が地域を代表する観光資源となる例もあります。京都でも、例えば京都国立博物館さんなどは外国人観光客の入場者がここ数年でかなり増加しています。この状況に対して京都市美術館においては、受け入れ体制が整っていなかったため、足を運ばれる方はとても少ない状態にありました。リニューアルオープン後はこの点も改善していきます。
外国人観光客の受け入れ体制というと、多言語対応が挙げられます。もちろんその対応は予定していますが、そもそも京都市美術館で見られるものが海外からの方にとっても魅力的なものでなければ、足を運んでいただくことは難しい。特に京都を訪れる方は日本の文化に触れたい、京都ならではのものを見たい、と考えておられるでしょう。しかし、海外からお越しの方に海外作品の巡回展を見せていては、それが伝わらない。その点を考えると、先にお話しした常設展の内容の充実が重要になります。
また、京都市美術館がどんな場所なのか、何を見せたいのか、目指す方向性を世界に向けてもっと発信・表現していくようにしていきます。今後は、中庭にガラスの屋根を設置して屋内空間化した「光の広間」などを京都ならではの「ユニークベニュー(特別な会場)」として、国内外からの様々なMICE(Meeting[会議・研修]/Incentive[招待旅行・トラベルツアー]/Conference・Convention[学会・国際会議」/Exhibition・Event[展示会・見本市])の受け入れも行っていきますので、そういった場でもしっかりとアピールしていきたいですね。
もう一つ重要なことが、夜の賑わい創出です。
これは岡崎エリア全体の課題ですが、年間500万人以上が訪れる、京都を代表する文化ゾーンであるにもかかわらず、夜に営業しているお店や立ち寄れるスポットが少ないので、夕方近くなると一気に人が引いてしまうのです。リニューアルオープン後は、少しでも夜の魅力創出に貢献できればとの考えから、開館時間を10時から18時までに、一時間後ろ倒しにします。
しかし、それだけでは十分とはいえません。ロームシアター京都の開館により、以前に比べると夜間の岡崎エリアの魅力は随分と高まり、さらには動物園の臨時夜間開館や京都国立近代美術館の週末の夜間開館・割引など、周辺でも様々な取り組みが行われています。リニューアルオープン後は、京都市美術館もそこに加わる必要があります。
正面エントランス前のスロープ広場では、コンサートやパフォーマンスを行うことができますし、アメニティ施設や日本庭園も活用できますので、他の施設と連携して、文化芸術の力で夜の賑わいを創出していく方針です。これは、京都観光全体の課題となっている、時間と場所の集中による混雑を緩和することにもつながります。
京都市美術館は2019年度中に生まれ変わります
ここまで説明してきたように、今回の再整備を機に、京都市美術館は機能が飛躍的に向上します。目指すは、世界水準の美術館。これを実現するためには、単にこれまでの蓄積だけを見せるのではなく、新しい流れもきちんと受け入れていかなければなりません。
そもそも、京都の街自体も、昔から伝わるものに新しいものを取り入れて発展してきました。その代表例こそが、岡崎公園。明治時代に都の地位を失い、衰退の危機に直面した京都がその困難に立ち向かうため、琵琶湖疏水の建設や日本初の電気鉄道の開業、第4回内国勧業博覧会の開催などを行い、近代化の扉を開いた場所です。
奇しくもそれから約150年後、平成から新しい時代へと替わる2019年度に、その岡崎公園の中心に位置する京都市美術館が、文化芸術の力で未来への扉を切り開くことになります。「伝統とモダン」さらには「和と洋」が融合した建物と事業により、国内外の方を魅了する美術館となるよう、職員が一丸となって、しっかりと準備をしていきます。ご期待ください。
京都市美術館
所在地
〒606-8344
京都市左京区岡崎円勝寺町124(岡崎公園内)
開館時間
9:00〜17:00(入館は16:30まで)
再整備のため本館閉館中(別館のみ開館)
休館日
※2019年度中リニューアルオープン予定
お問い合わせ
電話番号:075-771-4107
FAX:075-761-0444
E-Mail:bijutsukan@city.kyoto.lg.jp
公式サイト
■料金
特別展・企画展:展覧会によって異なる
■交通のご案内
【JR・近鉄】
「京都」駅より
市バス 5、100、110系統にて「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
【阪急電車】
「烏丸」駅・「河原町」駅より
市バス32系統にて「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車すぐ
市バス5、46系統にて「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
【京阪電鉄】
「三条」駅より
市バス5系統にて「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
「祇園四条」駅より
市バス46系統にて「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
【京都市バス】
5、32、46、100、110系統にて「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
201、202、203、206系統にて「東山二条・岡崎公園口」下車、徒歩約5分
【京都市営地下鉄】
東西線「東山」駅下車、徒歩約5分
【【自動車をご利用の方】
大阪方面より:名神高速道路京都南I.C 下車 市内へ約10km
名古屋方面より:名神高速道路京都東I.C 下車 市内へ約7km
※ 専用駐車場は無し(二輪・自転車用駐輪場は有ります)お車の方は、岡崎公園駐車場をご利用下さい。
電話:075-761-9617(1時間まで500円、以後30分毎200円)
京都MUSEUM紀行。アーカイブ
- 京都MUSEUM紀行。第一回【何必館・京都現代美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二回【河井寛次郎記念館】
- 京都MUSEUM紀行。第三回【駒井家住宅】
- 京都MUSEUM紀行。第四回【龍谷ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第五回【時雨殿】
- 京都MUSEUM紀行。第六回【京都陶磁器会館】
- 京都MUSEUM紀行。第七回【学校歴史博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第八回【幕末維新ミュージアム 霊山歴史館】
- 京都MUSEUM紀行。第九回【新島旧邸】
- 京都MUSEUM紀行。第十回【元離宮二条城】
- 京都MUSEUM紀行。第十一回【半兵衛麩・弁当箱博物館】
- 京都MUSEUM紀行。第十二回【京菓子資料館】
- 京都MUSEUM紀行。第十三回【木戸孝允旧邸・達磨堂】
- 京都MUSEUM紀行。第十四回【京都清宗根付館】
- 京都MUSEUM紀行。第十五回【京都万華鏡ミュージアム】
- 京都MUSEUM紀行。第十六回【京都府立堂本印象美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十七回【相国寺承天閣美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十八回【細見美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第十九回【清水三年坂美術館】
- 京都MUSEUM紀行。第二十回【千總ギャラリー】
- 京都MUSEUM紀行。第二十一回【京都国立博物館】
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